2018.10.19公開
離婚するとき,婚姻時に氏(姓,名字)を変えた人や未成年者の子どもの氏はどうなるのかを,簡単な設例を基に見ていきましょう。
事例として,佐藤一郎さんと鈴木京子さんが婚姻し,京子さんが佐藤の氏を名乗ることにしました。婚姻後,長男健太くんが生まれましたが,佐藤夫婦は離婚することになり,親権者として京子さんが指定された,とします。
ではまず,離婚した京子さんの氏はどうなるでしょうか。
この場合,婚姻時に氏を変えた人は,離婚すると婚姻前の氏に戻ります。したがって,京子さんは離婚後,「鈴木京子」となり,夫婦の戸籍から出て,婚姻前の戸籍に入るか,新戸籍を編製する旨の申し出をすれば,「鈴木」の新戸籍が編製されます。
しかし,子どもの氏は離婚によって影響を受けないので,子どもの親権者になったからといって,子どもは自動的に親権者の戸籍に移りません。つまり,健太くんは父親である佐藤の戸籍に残ったままです。
では,京子さんが健太くんに旧姓の鈴木を名乗らせるにはどうすればよいでしょうか。
この場合,家庭裁判所に対して,子の氏の変更許可の審判を申し立てて許可を得る必要があります。許可の審判書と入籍届を役所に提出すると,子どもの氏が変更されて親権者の戸籍に入ります。このとき,父親である一郎さんが,健太くんが旧姓を名乗ることに反対しても,制約を加えることはできません。仮に「子の氏を変更した場合,離婚は無効とする」といった合意をしても,かような合意は無効です。
これまでは京子さんが旧姓の鈴木に戻ることを前提としてきましたが,佐藤姓を名乗り続けるにはどうすればいいでしょうか。
この場合,離婚の日から3か月以内に婚氏続称の届出をします。この届出には配偶者の同意は要らないので,仮に一郎さんが,京子さんが佐藤姓を名乗ることに反対しても,届出は可能です。
ではこのとき,京子さんも健太くんも同じ佐藤姓なので何の手続きも不要となるでしょうか。
答えは否です。なぜかと言うと,先ほど説明したように,健太くんは一郎さんの戸籍に残っていますが,京子さんは「佐藤京子」として新戸籍を編製しています(婚姻前の戸籍に戻った場合でも,婚氏続称の届出をした場合は,新戸籍が編纂されます。)。このとき,両者「佐藤」姓は呼び方が同じでも別の姓(戸籍が別)だと考えられているので,京子さんは,子の氏の変更許可の審判を申し立てる必要があります。
離婚の際には,他にも様々なことが問題となり得ます。疑問があるときには,当事務所にご相談ください。
執筆者:山下江法律事務所 弁護士 山口 卓